いつか日本は、戦争のうずにまきこまれていた。ぼくの身のまわりも、だんだんきびしくなって、ゆめのような思い出などは、消しとんでしまった。戦争はますますはげしくなって、ぼくの父も出ていった。そして、空襲がはじまるころ、船といっしょに南の海に沈んだ。

  町は焼かれ、人は目ばかり光らせていた。ぼくは、のっぽな中学校の上級生となり、工場につれていかれた。油だらけになってはたらいているうちに、学校も焼けてしまった。

  毎日が苦しいことばかりだったが、また底ぬけにたのしかったような気もする。家が焼けたことを、まるでとくいになって話しあったり、小型の飛行機に追いまわされて、バリバリうたれたりするのが、おもしろくてたまらなかったりした。これは命がけのおにごっこだったが、中にはおににつかまってしまう、運のわるい友だちも何人かあった。いまになってみれば、ぞっとする話だ。

(佐藤さとる『だれも知らない小さな国』講談社青い鳥文庫p.44)